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インタビュー2012-07-05

映画「降りてゆく生き方」に魅せられて
シンガポールで活躍する日本人女性・田中春美さん

 昨年10月、映画「降りてゆく生き方」(主演:武田鉄矢さん)がシンガポールで海外初上映された。実はこの映画、映画館で公開されていない自主上映映画。この上映が実現したのは、田中春美さんという一人の日本人女性の思いがきっかけだった。
 田中さん自身、まるで導かれたかのようにこの映画と出会い、この映画がきっかけとなって活動の幅を広げているという。日本人として、女性として、このシンガポールでどんな活動をしてきたのか。田中さんのこれまでの活動のお話はもちろん、映画「降りてゆく生き方」に対する思い、そして今後についてお話を伺った。

そもそもシンガポールに来たきっかけを教えてください。  イギリスに留学して仕事をしていて一度日本に戻っていました。だけど、やっぱり海外に出たくなって(笑)。シンガポールには友だちがいて、仕事もあったので「じゃあシンガポールで働こうかな」と。働き始めたら仕事が忙しくてあっという間に5年経ちましたね。

5年働いてみて、どんな心境の変化があったのですか。

 5年でまずひと区切りかなという単純な考えと、「何か変わりたいな」という漠然とした思いがありました。そこで旅行に出たり、一旦日本に戻ったりしてのんびり過ごしていました。その間にコーチングの勉強やオーラソーマの勉強を始めました。

なぜコーチングやオーラソーマを勉強しようと思ったんですか。  仕事で部下をトレーニングしたり、マネージメントする業務に長く携わっていたので、人の意識をプラス思考に好転させるコーチングやオーラソーマを勉強してみたいと思いましたね。

充電期間を経て、またシンガポールに戻ってこられたんですよね。

 勉強をするうちに「これを何か形にするならシンガポールでやりたい」と思ったんです。PR(=永住権)を取得していたことも大きな理由の一つでしたが、コーチングやオーラソーマが本当に必要なのは海外生活を送る日本人ではないかと思ったんです。長い海外生活の中で苦労している日本人をたくさん見てきたので、そんな人たちの生活をもっと充実させたいなと考えました。そして2010年にシンガポールに戻って来たんです。

まず、どんな活動からスタートしたんですか。 

 最初は「朝食会」を実施しました。その頃はまだ正社員として働いていたので、比較的自由に活動できる朝の時間を活用したイベントを企画したんです。月2回、平日の朝7時に集まって一つのテーマについて話し合います。「自分のお気に入りのお店」とか「人と違う生活習慣」といった身近なテーマについて話し合ったり、TED(=Technology Entertainment Design)の講演を見てその感想を話し合ったりしましたね。周囲の友だちからは「そんなことやってどうするの?」という反応でしたが、実際に掲示板サイトで告知したところ、ビジネスマンから主婦の方まで、年齢性別問わず集まりました。夜集まってお酒を飲みながら会うというのも悪くはないのですが、朝から活動すると身体のリズムが整いますよね。参加者の方からも「朝から元気に出勤できるようになった」「主婦なので週末や夜だと参加しにくいけど朝なら参加できる」と好評で、私自身も健康的になりましたし、痩せましたよ(笑)。

そういった活動を続けている中で、映画「降りてゆく生き方」に出会ったんですね。 

 その頃、コーチングで知り合った方からこの映画の話をうかがいました。すぐにホームページを検索して映画のコンセプトを読んだところ、自分の心に響くものがあったんです。さらに、映画のコンセプトメイク過程でのインタビューをまとめた動画「夢縁(ゆめえん)」を見て皆さんの言葉にもとても共感できました。すぐに「この映画を見たい!」と思ったんですけど、映画館で上映しているわけでもないし、上映先は日本国内の地方ばかり。自主上映映画と書いてあったので、シンガポールでも上映しないかなと思ってホームページを通じてメールを送ってみたんです。そしたらすぐにプロデューサーからお電話をいただきました。私が日本に帰国したときにお会いしたり、メールのやり取りを繰り返したりしていたところ、昨年の始めにプロデューサーが来星されてその年の10月に上映会を開くことが決まりました。

田中さんの思いがシンガポールでの上映を実現したんですね。

 この映画は2009年から上映が開始されている映画ですが、主演の武田鉄矢さんのお名前はよく知られているものの、日本以上にこの映画のことを知らない人ばかりなわけですし、日本国内ですら宣伝をしていない映画です。なので、告知にはとても苦労しました。  
 そこで本屋さんに場所とモニターをお借りして、お店の一角で7月からプレ上映会を4回ほど実施しました。毎回4~5人くらいの方が集まってくださいました。上映後に映画の内容についての感想を語り合ったり、「実はこの映画、見たいと思っていたんです」という声もいただいたり、有意義な時間を過ごすことができましたね。私もそのときに初めて映画を見たのですが、プレ上映会を実現できた達成感も相まって本当に感動しました。その後口コミなどで評判が広がって、10月の上映会では200人くらいの方が集まってくださいました。  
 告知チラシを置いてくださったお店やメディアの方々の協力、友人たちなどみんなの力が結集してこの上映会を実現できたと思っています。地域で人のつながりができ、それが新たな縁につながることこそこの映画が大切にしていることでもあるので、みんなで上映会を実現できたということがとても大きな喜びになりました。

この映画を上映することで田中さんご自身が新たな縁を感じられることもあったのではないでしょうか。 上映会実現に向けて奔走していただいた方々とのご縁はもちろんですが、日本国内で上映会を実施した主催者たちとつながったという縁もありますね。昨年10月の上映会は実は海外での初上映だったのですが、「海外でもこの映画が上映されたんだ」と主催者の皆さんも喜んでくれました。私も主催者の皆さんがつないでくれたバトンをしっかりと受け取ったんだなと思いましたね。

映画の上映だけでなく、コーチングに関する講演会も手掛けていらっしゃいますよね。 

 映画の上映会を実施した頃に「そろそろ自分のやりたいことを実行に移したい」と思い始めて、「HSEEDS」という会社を立ち上げました。そんなとき、コーチングのスペシャリストで質問家のマツダミヒロさんからお声かけいただいて昨年12月にシンガポールで講演会を実施し、今年6月にはマツダさんらによる特別授業を日本人学校中学部で開催しました。また、コーチングの先輩で「日本人にしかできない気遣いの習慣」の著者でもある上田比呂志さんの講演会も4月に実施しました。
 このお二人との出会いやつながりはまるで種(SEEDS)のような小さなきっかけでした。どんな花が咲くかは分かりませんが、そういった小さな種をたくさんまいてきたことが次々と花開いているような気がしていますね。まさに社名の通りです。

そして、映画の上映をきっかけに食育セミナーも実施されているそうですね。 

 私はオーガニックアドバイザーの資格も持っています。映画のインタビュー映像で「奇跡のリンゴ」で有名なリンゴ農家の木村秋則さんのお話を聞いて、自然の持つ生命力に対する考え方にとても共感しました。そこで、この映画が縁でつながったシンガポール在住の医師と食についてのイベントを企画したんです。なので、私の食育セミナーはこの映画の考え方がベースとなっています。  
 シンガポールでは自然栽培のものを手に入れることは難しいかもしれません。ただ、このセミナーを通じて自分の生き方を見つめ直してほしいと思っています。旬のものを食べるとか、身体が欲しているものを食べるとか、できるだけ農薬のついていないものを選ぶとか、そういう意識を持つだけでライフスタイルが変わります。そのためのエッセンスを伝えていきたいですね。

「Down to Earth」と題した食育セミナーは医師や中医師ともタッグを組む(一番左が田中さん)

映画は7月にもまた上映するんですよね。 

 今回は上映会だけでなくプロデューサーの講演会も行います。映画のコンセプトもより伝わるのではないでしょうか。
 また、今回は日本人学校中学部での上映会も行います。保護者の方や大人に見てほしい映画でもありますが、これからの社会を担う若い世代にも見てほしいと思って学校での上映を実現させました。中学生が理解するには難しい部分もあるかもしれませんが、人生にはいろんな選択肢があると実感できる映画だと思います。ご家族で映画の内容について話し合うのもいいかもしれませんね。

田中さんご自身が映画を通じて届けたいメッセージは何ですか。  シンガポール在住の日本人は歩く計算機のようなビジネスマンばかり。とっても残念です。日本よりも景気がいいシンガポールにいるとその楽しい雰囲気にのまれてしまいがちですが、日本の現実から目をそらしているような気もしますね。  特に昨年の震災以降、日本国内は大きく変化したと思います。震災は日本人が「生きる」ということを強く考えさせられた出来事でした。当時シンガポールにいた日本人は震災を経験しなかったからこそ、日本人が頑張っている姿をもっと知ってほしいですね。特にいつも光が当たっている人ではなく、日本各地で地道に頑張っている方々の姿を見てほしいです。
 まだまだ自分自身もこの映画から生き方を学ばせてもらっている最中です。リンゴ農家の木村さんにもお会いしたいですし、シナリオモデルになった方々からもいろんなことを吸収したいですし、できる限りこの映画に携わっていきたいですね。シンガポール以外の国での映画の上映のお手伝いもしていきたいですね。

田中さんのように「何かやりたい」と思っている女性はシンガポールにもたくさんいらっしゃいます。そういった女性が一歩踏み出すためのアドバイスをぜひお願いします。  

 何であれまずは「経験してみること」が大事ですね。何をもって成功なのかは人によって違うと思いますし、成功の形は一つではないです。まず「自分がやってみる」ということがすでに一つの成功だとも思いますし。
 例えば、女性の場合、何か習いごとに通うことでさえ一歩踏み出すのをためらっている人も少なくないですが、「合わなかったら辞めればいい」と思えばそんなに大変なことではないですよね。でも、何かをやり始めてそれを続けるか続けないかを決めるのは自分自身。時々支えてくれる人はいるかもしれないけど、自分の道を歩くのは自分しかいないという覚悟は必要かもしれません。それでも、やっておけばよかったと後悔するよりは絶対にやってみたほうがいいと思いますね。
 ただ、何をやってもうまくいかないという人もいるかもしれないですし、何をやりたいのか分からないという人もいると思います。そんなときは「ムリをしない」ということも大事かもしれないですね。私自身も5年働いた後、自分自身を見つめ直す時間を作りました。ただ、それでも好きなことを追求することだけは続けていました。それがあったからこそ、映画「降りてゆく生き方」とも出会えました。好きなことを追求することで何か道が開けるということもあるかもしれませんね。
 女性の力はスゴいって思っています。女性が明るくなれば男性も明るくなるし、子どもたちも明るくなります。独身でもシンガポールで頑張っている日本人女性も少なくないです。彼女たちが明るく生活できるように、学び続けることができる場所をプロバイドしていきたいなと思っています。

映画「降りてゆく生き方」公式サイト

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