特集/コラム

【インタビュー】2007-09-30

「日本人はもう少しアジアのことを知るべきですね」
南條史生さん(シンガポール・ビエンナーレ、アーティスティック・ディレクター)

昨年11月に東京六本木ヒルズの森美術館館長に就任した南條史生さんは、前回に引き続き2008年の第2回シンガポール・ビエンナーレでもアーティスティック・ディレクターを務める。(ビエンナーレとは、イタリアのヴェネツィアを始めとして世界各都市で行われている隔年開催の国際美術展覧会で、シンガポールでは2006年から始まった)来年9月に開幕するビエンナーレまでちょうど1年となる9月11日、シティーホールで行われた合同記者会見のために来星した南条さんにお話を伺った。丁寧かつ落ち着いた口調で力強く語る南條さんからは、長年国内外の大規模な美術展覧会にたずさわってきた経験と自信が感じられる。


― まずはシンガポールの印象について聞かせてください。

 「日本人にとって非常に楽な場所ですよね。アジアのほかの国へ行くとある程度身構えていないといけない。つまり何かを盗られたり、システムが根本的に違ったり、いろんな意味で緊張を強いられる。ところがシンガポールは、日本にいるのと同じ感覚で問題がない場所。また国が小さいからある種のユートピアとしてデザインされているわけですよ。何しろいろいろなことが法律にしてもデザインされているという意味では、アジアの中で極めて特殊な国ですね。こういうところは他のアジアの国にはないでしょ?この国の一つの特徴は、安全と信頼性と安定性があることだと思うし、仕事をする相手としてはこれほど安心できる場所は他のアジアにはないですよ」

― 前回に引き続き、シンガポール・ビエンナーレのアーティスティック・ディレクターを務めることになった経緯を教えてください。

 「僕が出したアイデアが彼ら(主催のナショナル・アーツ・カウンセル(NAC))としては受け入れやすかったんじゃないかと思うんです。やはり欧米の美術史関係の専門家っていうのは、感覚的にかなり違うわけですよ。でも日本人の場合は同じアジアの文化圏ということもあって、いろんな意味で気心が知れている部分を感じたんじゃないかと思います。また、1人のディレクターが2回続けてやることによって、継続性と変革っていう両方を出していこうという狙いもあります」

―シンガポール・ビエンナーレの特徴と意義はなんでしょうか。

 「多人種、多宗教、多文化という所に特徴があります。だから前回はいろいろな宗教の寺院に行って、そこに作品を置いていくことによって、シンガポールの特徴が海外から来た人に見えるようにしました。また、シンガポールはこの地域の窓口になる意識があるんですよ。ですからビエンナーレも展覧会を創るために収集した情報をアーカイブとして残していくことにより、シンガポールが将来的にこの地域の文化のハブ(中心地)になることを目指しています」

―2008年のビエンナーレについて具体的に説明していただけますか。

 「前回を引き継ぎながら、ある程度の変化を加えていこうと思っています。はっきりいえば1回目を自己批判的に解体していく方向で、わざと会場を拡げない。非常に絞られた会場でなるべくゆっくり作品を見る形にしようと考えています。だから作家の数もあまり増やしません。一方で、マリーナベイという都市に近接した水のあるエリアを何とか使いたいと思っています。テーマである『Wonder』は『驚き』とか『感動』という意味ですけど、それと同時に『疑う』っていう言葉が裏に入っています。『Belief(信念)』という前回のテーマに対して『疑い』っていうのも必要なんですよね」

― 1年後の開催に向けての準備は順調でしょうか。

 「なるべく調査したいんだけど時間がないんですよ。つまりカタログとか製作の準備期間を考えると、本来は12月から来年3月の間に全てが決まらないといけないんです。そうすると調査する時間があまりないので、それはちょっと残念ですね。もう少し中央アジアや中近東、モンゴルの草原とか、その辺まで調査に行って見たいと思っているんですけど、なかなか全部はできませんね」


―話は変わりますが、趣味は何でしょうか。

 「ほとんどないんですよ。仕事でプライベートの時間も全部つぶされていくから(笑)。時々車でどこかへ旅行するとか…まあ強いていえば仕事で行く旅行が趣味みたいなものかもしれませんね。結構、変な知らない国に行くのが好きですよ。20年位前だったかな。イラン、トルコ、シリアなどやイランの遺跡バビロンとか中近東の遺跡を全部見て回りました。それからインドの古い遺跡があるところも相当見てまわっています。だからそういう古い文明というものがあって現代美術があると感じました。この一つの歴史的なパースペクティブ(視野)を見ながら、現在というものを見ていかないと駄目なんじゃないかと思います。そういうことを意識しながらの旅を時々しますね」

―最後にシンガポール在住の日本人や旅行者に向けてのメッセージをお願いします。

 「ビエンナーレをやっているということはなかなか伝わらないかもしれませんが、なるべく見に来て欲しいですね。そこにはシンガポールのアーティストもたくさんいるし、この地域(東南アジア)のアーティストもいるわけだから。やっぱり日本人はもう少しアジアのことを知るべきですね。そういう意味では今のアジアの文化っていうものをこういう機会に知ってもらえるといいかなと思います」

南條史生さん:森美術館館長。1998年台北ビエンナーレ、2001年横浜トリエンナーレを始めとして、数々の国際美術展のプロジェクトに参加してきた。

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