特集

シンガポールのアニメ産業事情2009

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東南アジア初の大規模アニメイベント「アニメ・フェスティバル・アジア」 

日本の東京国際アニメフェアやアメリカのアニメエキスポに匹敵する、東南アジア初のアニメイベントとして昨年11月22日・23日、サンテック・シンガポール国際会議展覧場(1 Raffles Boulevard)で「アニメ・フェスティバル・アジア」(AFA)が開催された。開場4時間前から来場者が並び始め、開場から1時間で5千枚の入場券が販売されるなど、初日から数多くのアニメファンが詰めかけた。

 会場は、「アニメライブ」「アキバタウン」「アニメ・ブロックバスター」「インダストリー」「マンガカ(漫画家)」「プラネット・メカ」「アリーナ」と7つの体験ゾーンに分けられ、テーマ別にさまざまな催しが繰り広げられた。最新アニメ作品の上映やライブ・パフォーマンスなどを開催したメーンステージの「アニメライブ」では、アニメソング歌手の水木一郎さんとMAY’Nさんのコンサートが観客を大いに沸かせた。MAY’Nさんがチャンギ空港へ到着した際には、来星を待望していた熱心なファンが待ち受けるなど、当地での人気の高さをうかがわせた。

秋葉原カルチャーのコンテンツを集めた「アキバタウン」には、バンダイ、スクエア・エニックス、メディコム・トイなど日本の大手玩具メーカーを含む30社のマーチャンダイズ商品が並び、初日の開場直後からコレクターらが殺到。通常より割り引かれた価格設定、同フェス限定グッズなどを買い求めるファンの姿が多く見られた。

業界関係者がアニメビジネスについて紹介した「インダストリー」には、日本でオンエアが開始したばかりの新作TVシリーズ「お願い!ポクポン」を上映。ほかにも旅行代理店エイチ・アイ・エスが、秋葉原やアニメ・漫画関連イベントなどを巡るシンガポール支店のオリジナル企画「オタクツアー」を大々的に宣伝するなど、多くの関連企業や学校、アニメ制作スタジオなどがブースを出展し、自社の製品やサービスの宣伝やビジネスチャンスの模索に努めた。

メーンスポンサーのバンダイの商品を紹介した「プラネット・メカ」では、ガンダム関連製品を中心に展示。シンガポールの一流プラモデルアーティストに制作を依頼した特大サイズのジオラマには常に人だかりができ、同フェスのランドマークになっていた。

ほかにも日本の最新アニメ作品を紹介した「アニメ・ブロックバスター」では「ガンダム00」「コードギアス」「灼眼のシャナ」「スカイクロラ」のメーキング映像などを上映、「アリーナ」では国内初のアーケードゲームコンペが開催、「マンガカ」では「週刊少年ジャンプ」のアートワーク展や漫画アートのコンペを実施するなど、さまざまな催しでアニメファンの心を引き付けた。

同フェスの反響が非常に高かったことを受け、主催者側では第2回イベントを今年後半に開催をすることを決定しており、すでに企画も動き出しているという。


 シンガポールでは、AFA以外にも多くのアニメ関連イベントが開催されている。昨年6月には、玩具、漫画、アニメ、ゲーム、デザインなど世界のポップカルチャーを集めた「シンガポール・トイ&コミック・コンベンション」が初開催され、3日間で14万人を動員。11月の「文化庁メディア芸術祭シンガポール展2008」では、日本の漫画、アニメ、ゲームなどを中心に紹介。今敏監督の「千年女優」や宮崎駿監督の「もののけ姫」の無料上映会には参加申し込みが殺到し、開催1週間前には受け付けを締め切る盛況ぶりを見せた。

東南アジア初の大規模「日本アニメ」フェス-水木一郎さんのライブも(シンガポール経済新聞)

シンガポール初の大規模「コミケ」-トーフ親子、コスプレーヤーも(シンガポール経済新聞)

星で「文化庁メディア芸術祭」-現代アートの新美術館「8Q sam」で開催

■浸透を続けるジャパニメーション-日本との同時放送も実現

  昨年10月、アニメやアート、エンターテインメントなど子どもや若者を対象としたコンテンツを専門に提供する新チャンネル「Okto」が開局。昼間の放映枠では「ポケモン」「遊戯王」など主に子ども向けアニメなどを放送している。夜は水曜から金曜まで日本製アニメを専門に放映する放送枠「アニマニア」を設定。日本と同じ週に放送する新着番組が人気を集めており、「キャシャーンsins」「スキップ・ビート!」「とらドラ!」などがすでに放送されている。

同局関係者は「さまざまなアニメ作品が見られる現在、視聴者からの反応も良くなっており、シンガポールのアニメシーンが成熟の一途にあると実感している。開局の際の宣伝効果もあり、これまで関心を持たなかった人々も日本のアニメ番組に目を向けるようになった」と話す。

メディアコープは、ビデオ・オン・デマンドのポータルサイト「MOBTV.sg」を昨年7月から運営しており、コアなアニメファンのために多くの作品を日本と同週に配信する「アニメトリックス」は人気コンテンツの一つになっている。

 今年4月にはケーブルテレビ局のアニマックス・アジアが、日本製アニメ「ティアーズ・トゥ・ティアラ」の世界初となる日本との同時放送を開始し、アニメファンの話題を集めた。同時放送や同週放送は、放送を待ちきれないファンによるインターネット上での違法ダウンロードを防止するための有効策としても注目されており、同局では今後も日本との同時放送を推進していくとしている。

Okto

MOBTV.sg

アニメ「ティアーズ・トゥ・ティアラ」、アジア各国で日本と同時放送開始(シンガポール経済新聞)

■「メード・バイ・シンガポール」を増やす政府の方針

日本のアニメが存在感を強めていく一方で、シンガポールでは政府が中心となって国産アニメを後押しする動きが強まっている

 2005年12月にシンガポール政府がデジタルメディアを国の重要産業と位置付けたのを受け、経済開発庁(EDB)は今後10年間に10億シンガポールドルをデジタルメディア産業に投資すると発表。外資企業や専門教育機関の誘致、研究開発の推進、海外からの投資誘致を目指し、2018年までにシンガポールのデジタルメディア産業の付加価値額を100億シンガポールドルまで引き上げ、6,000人以上の新規雇用の創出を図るとした。対象領域には、ゲーム、CG、マーチャンダイズなどのほか、アニメも含まれている。

情報通信芸術省(MICA)は、2012年までにGDPの3%をデジタルメディア産業が担うことを目指す政策「Media 21」を2003年に立ち上げ、担当機関としてメディア開発庁(MDA)を設立。国防軍のCMをデジタルアニメで表現した作品を募る「N.E.Mation! III」や、日本のテレビ局TBSが主催するデジタル映像コンテスト「デジコン6」のシンガポール部門「Digicon 6 Singapore」など、デジタル作品のコンテストを積極的に支援している。ほかにも、海外市場で勝負できる作品の企画に必要なマネジメントスキルを指導するワークショップを開催するなど、アニメ製作会社へのサポート体制を整えている。

 人材教育にも力を入れており、クリエーターたちが海外でスキルを磨くための奨学金制度を設けているほか、すでに製作現場で働いているクリエーターを対象に継続教育の機会を提供するため、アニメ製作コースを持つ国内の専門学校と提携して、産業界のニーズに応えられるカリキュラム作りにも取り組んでいる。

Media 21

■海外に進出する「シンガポール・アニメ」

  シンガポール政府の後押しを受け、海外での認知度を高めている国内のアニメ会社が次々と現れている。「ピーチ・ブロッサム・メディア」が中国の文化をモチーフに制作したTVシリーズ「Tao Shu」は、ニッケルオデオン・アジア、香港のATV、フランスのTPSなどで放送されており、2007年には全米の親が子ども向け優良商品を選出する「iParenting Media Award」のビデオ・DVDカテゴリーで最優良商品賞にも輝いた。ほかにも、昆虫の家族に育てられた少女が人間社会で奇妙な体験をする「Growing up Creepie」はエミー賞にノミネートされ、国内外の注目を集めた。

 MDAは国内のアニメ製作会社への資金面でのサポートも積極的に進めており、ピーチ・ブロッサム・メディアには7作品への出資を行っている。同様にMDAが5年間で5作品への出資に合意した「スクロール・スタジオ」は、ミクロサイズのヒーローアクションTVシリーズ「The New Adventures of Nanoboy」を製作、同作品は欧米諸国でも放送されるなど高い評価を受けた。

昨年10月に公開された長編アニメ映画「Sing to the Dawn」もMDA出資作品の一つ。国内地上波テレビを独占する「メディアコープ」傘下の映画会社レインツリー、地元アニメスタジオのインフィニット・フレイムワークス、地元ビデオ会社スコーピオ・イースト・ピクチャーズの共同制作で、原作はシンガポール出身作家の児童文学。国産初の英語版長編アニメとしても注目された。英語で製作した背景には、国際市場でのセールス展開という目的がある。

 2003年に設立されたアニメ製作会社「メディアフリークス」のアルドリック・チャン・マネージング・ディレクターは「国内のアニメ産業をサポートするMDAの方針は、製作会社にとってコンテンツを生み出しやすくなっただけでなく、作品の品質向上にもつながっている」と話す。一方で「シンガポール産の作品は技術面では質が高いものの、日本や欧米のように成熟したマーケットに比べると、カメラのアングルやストーリーボード構成など演出面においては、まだまだ向上の必要な余地がある」とシンガポール・アニメの現状を指摘する。

Peach Blossom

Scrawl Studios

「Sing to the Dawn」

メディアフリークス

■高等教育にも及んでいるアニメ産業へのサポート

 アニメ産業を重視する動きは、高等教育にも及んでいる。南洋理工大学(NTU)は、2004年に芸術デザインメディア学部ファインアート課程を新設。デジタル映画製作コース、プロダクトデザインコース、ビジュアルコミュニケーションコースなどと並び、デジタルアニメーションコースも設置しており、芸術、デザイン、メディアの分野で学位を取得できる、国内初の芸術系学部として注目されている。

 同学部のラッセル・ペンシル准教授は「シンガポール国内だけでなく、東南アジア地域全体でアニメ製作に対するニーズと関心が高まってきたことが、コース開設の背景にあった。従来のセルアニメから、最新の3Dを使ったキャラクターアニメや視覚効果まで、さまざまな製作方法を授業で扱っており、技術面だけでなくストーリーテリングやデザインなどアニメ製作のノウハウやセンスを包括的に体得できる」と話す。

産業界との協力関係も築いており、学生にルーカスフィルム・アニメーションやユビソフト、エレクトロニック・アーツなどのアニメやゲーム会社で、インターンとして働く機会を得ることもできる。「天地無用」「ああっ女神さまっ」などで知られる日本の大手アニメ製作会社アニメ・インターナショナル・カンパニーと、日本向けのテレビアニメシリーズを共同製作することも2006年に合意している。

 世界のアニメ情報を掲載する情報サイト「アニメーション・ワールド・ネットワーク」のアニメ学校データベースには、現在シンガポールの公私立合わせて15の教育機関が登録されており、うち12校が2000年以降に開設された新規校である。

ゲーム開発を学べるアメリカ初の4年制大学「デジペン工科大学」も、初の海外校(10 Central Exchange Green, #01-01)をシンガポールに昨年開校した。ファインアートインプロダクションアニメーション学科を有しており、第1期生を迎え入れたばかり。AFAでもブースを構え、コース紹介と学生誘致のPR活動を行った。

 この劇場だけでもシンガポールを構成する3大民族(中国人、マレー人、インド人)をテーマにした芸術祭に加えて、ダンスやジャズなど計5つの異なるテーマの芸術祭を毎年催している。そ の他にも、世界中から集まったミュージシャンのコラボレーションが楽し める野外コンサートWOMAD、シンガポール・ダンス・シアターによる野外バレエ公演「バレエ・アンザー・ザ・スター」、社会的問題をテーマにした「シン ガポール・フリンジ・フェスティバル」など、一年を通じて様々な芸術祭が楽しめる社会に変貌した。また、市民の間でも趣味でダンスや楽器を習うのが定着したの変化に、アーツフェスが大きく貢献してきたのは間違いない。

南洋理工大学(NTU)

デジペン工科大学シンガポール校

Animation World Network「アニメーション・スクール・データベース」

■ルーカスフィルム・アニメーションとジェダイ・マスター・プログラム

2005年にルーカスフィルム・アニメーションが海外初のスタジオをシンガポールに開設したことは、国内のアニメ産業が飛躍的に活性化するきっかけとなった。同スタジオのオープン前後から、アニメーションコースを設置する学校やデジタルメディア関連の学校が相次いで開校したのは偶然ではないだろう。

ルーカスフィルム・アニメーション・シンガポール(LAS)が製作したCGアニメシリーズ「スター・ウォーズ:クローン戦争」は、シンガポールでも昨年12月より地上波放送局チャンネル5で放送を開始。ニンテンドーDSの北米版ソフト「スター・ウォーズ:クローン戦争:ジェダイアライアンス」のコンセプト作り、開発、製作もすべてLASが行っており、現在はシーズン2の製作が進んでいる。

ジョージ・ルーカスさんは、LASを開設した理由のひとつとして、カリフォルニア本部との共同で24時間体勢の作業が可能になることをあげている。「カリフォルニアのスタッフが帰り支度を始めるころ、シンガポールの1日が始まる。同じ技術ネットワークを共有しているので、作業を引き継ぎ合って途切れることなく仕事を進めることができ、極めて効率的な製作パイプラインが成立する」

 現在、LASのスタッフは約300人。オフィス開設以来、キャラクターアニメーター、デジタルアーティスト、コンセプトデザイナー、ソフトウェアエンジニアなど、多数の新規ポジションが設けられた。昨年2月には「ジェダイ・マスター・プログラム」と呼ばれる6カ月の研修制度をスタートさせ、将来的にLASで働く人材を育成している。LASは国内の教育機関とも密接な関係を築いており、学生のインターンを積極的に受け入れているほか、デジタルメディア教育に関わる講師らを対象に視覚効果製作入門コースも開催している。

ルーカスフィルムの人材研修-「ジェダイ・マスターズ・プログラム」(シンガポール経済新聞)

■アニメ産業を支えるファンが育つ土壌

昨年のAFAで、多くの来場者が真っ先に目指したショップの一つに「カレシカノジョノミセ」がある。同イベントでの限定商品販売を事前告知していたこともあり、固定客からの反応の高さは想像できたが、予想以上に客が詰めかけたため急きょブースへの入場制限を行った。

同店オーナーのシャロンさんは「ブースへの入場制限は日本のコミケで学んだやり方」と話し、売り場の混雑を回避するだけでなく、来場者一人ひとりがゆったりと商品を見ることができるよう配慮したものと説明する。初日は17時近くまで、列が途絶えることはなかった。取扱商品はほぼすべてが日本のアニメグッズで、人気タイトルは「リトルバスターズ!」「黒執事」「エヴァンゲリオン」など。シャロンさん自身も熱心な日本のアニメファンだったという。シンガポール国内でアニメグッズを買える店がほとんど存在しなかったことから、2000年に同店をオープンした。「当時、日本のアニメのビデオやVCDが売られていたが、とても高価で手が届かず、1日1ドルほどのレンタルビデオで見ていた。最初の3、4年は、ビジネスとして厳しい状況だったが、インターネットの普及とともに、情報通の人々が増え、店の噂も口コミで広がっていくようになった」と振り返る。同店が入居しているサンシャインプラザ(91 Bencoolen Street)にはアニメグッズの専門店が集中している。互いにライバル同士でありながら、情報交換できる心強い仲間だ。

  同店は、日本のアニメグッズ版元と密接な関係を築き、限定商品や新作商品を常にチェックしている。一部の商品に関しては並行輸入も行っており、固定客を魅了し続ける充実したラインアップの秘訣となっている。毎日店で客と会話をし、そこから彼らの求める商品や好みを把握することもシャロンさんにとって重要なマーケティングの手段だ。「現在はアニマックスやOktoのように、アニメ番組を豊富に流すテレビ局があるおかげで、アニメファンの数が自然に増えている。ファンを育てるところから始めた私たちにとっては、まるでボーナスのような状況」と笑う。

カレシカノジョノミセ

小林亮子+シンガポール経済新聞編集部

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