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「魅せるサッカー」と「勝つサッカー」は矛盾しない。
僕たちがボールをつなぐのは試合に勝つためです。 【前編】
―アルビレックス新潟・シンガポール監督 杉山弘一さん

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Sリーグで戦うと、ACLで戦う気分を味わえる

まずはSリーグの特徴を簡単に説明していただけますか。

 日本から参加するアルビレックスのほかに、今年はマレーシア、ブルネイからもチームが参加しているので、いろいろなタイプのサッカーを見ることができます。ひとつのリーグでACL(AFCチャンピオンズ・リーグ)の気分が味わえるという感じでしょうか。国外から参加しているチームは、それぞれの国を代表している気持ちで戦っていますから、そこには1つの国のチームだけで戦う以上の真剣さがあります。

Sリーグのレベルはどの程度なのでしょうか。

 日本で言えばJ2の下位からJFLの上位と表現されることが多いですが、正確なところは分かりません。ただ、外国籍選手はもちろん、シンガポール人選手の中にも日本で活躍できるレベルの選手はいます。現在Jリーグには「アジア枠」があるので、シンガポールからも選手が移籍するようになったら面白いですね。

 また、Sリーグでプレーしている日本人選手は発展途上の若い選手が多いです。1年在籍するだけでも実力をぐんと伸ばして日本に戻って活躍できる選手がこれから増えてくるはずです。シンガポールからさらに海外へ行こうと考える日本人選手も大勢います。通常なら優秀な代理人でもついていなければ、日本から海外のクラブへ移籍するのはなかなか難しいと思いますが、アルビレックスの選手たちはためらいなく「タイに行ってトライしてきます」なんて言うんですよ。どうやってトライするのかこっちが教えて欲しいくらい(笑)。ここにいると選手たちが自分たちで道を切り開いていくようになるんです。

目指すのは「常に試合の主導権を握るサッカー」

杉山監督がアルビレックスで目指しているのは、どのようなサッカーですか。

 僕たちが目指しているのは、「ボールを保持して常に試合の主導権を握るサッカー」です。「蹴る」「走る」「跳ぶ」といった能力は、外国人選手やシンガポール人選手の方が日本人選手よりも高いものを持っています。昨年7月のリーグカップでは、クラブ史上初となるタイトルをもたらした ©ALBIREX NIIGATA SINGAPORE

しかし、ボールをつなぐサッカーをすることで、秩序を持って献身的に戦える日本人選手の良さを引き出し、Sリーグで勝つ確率を高めることができると考えています。そうしたサッカーの方が、見ている観客にとっても楽しいはず。「見て楽しいサッカーをす

る」と言うと、「勝負を重視しないのか」と反論する人がいるかもしれませんが、僕の中では「魅せるサッカー」と「勝つサッカー」は矛盾するものではないんです。ボールをつなぐのは「勝つため」なんです。

過去2シーズンと今年でアルビレックスのサッカーに違いはありますか。

 「常に試合の主導権を握る」という基本的な哲学は変えていません。ただ、守備が昨年までマンツーマン寄りだったのを、今年は若干ゾーンディフェンス気味にするように、戦い方に多少の変化を加えています。アルビレックスは毎年選手が大きく入れ替わるチームで、今年も8人以外全員入れ替わっています。そのため、所属する選手たちの特徴によって、サッカーにも若干の変化が出てきます。一方で僕とサッカーをするのが3年目になるという選手もいます。その選手たちにとっては、過去2年と同じことをするのではプラスになりませんから、意識して違うことに取り組んでいるという意味もありますね。

ほとんどの試合で同じフォーメーションを採用していますが、そこには強いこだわりがあるのでしょうか。

 現在採用している「4-1-4-1」というシステムには、守備をするときに相手のツートップにアンカー(ディフェンスラインのひとつ前の選手) で「保険」をかけられるというメリットがあります。ボールを動かす上でも、アンカーがいることでパスコースを多く作ることができます。固い守備が大前提となるカウンターサッカーは、身体能力で劣る自分たちには難しく、ボールを持つ時間を長くしないと勝つことができません。そのためにはパスを回せる布陣が良いんです。

 ただ、大事なのはシステム自体ではなく、どういったサッカーを追及するかという点だと思っています。例えば、今年のバルセロナは布陣を「3-4-3」にしたり「4-4-2」にしたりしていますが、あれもシステムではなく、「攻撃を貫く」というサッカースタイルを追求していった結果。僕たちもそのレベルを目指したいと思っています。だから今のフォーメーションは、こだわっているようであまりこだわっていません。こだわっているのは自分たちのサッカースタイルを確立することと、チーム全体が一つ一つの局面で同じ判断ができるようになることです。

現在のチームの課題は何ですか。

 もっと試合の主導権を握れるようにならなければいけないと考えています。今年の選手たちは才能があると感じているので、積極的にゴールを目指していきつつ試合の主導権もキープし続けるという状態を今以上に作り出せるはずだと信じています。アルビレックスは選手全員が攻撃にも守備にも関わってくるチームです。攻撃の起点はゴールキーパーやディフェンダーで、そこでうまくいかなければ攻撃は機能しません。逆に、守備となるとボールを奪われた時に相手のエリア内でどこまでディフェンスできるかが大事になってきます。僕らのサッカーでは点が取れないのはフォワードのせいではないし、点を取られるのはディフェンダーだけの責任ではありません。たとえ控えの選手であっても、日々のトレーニングから常に高い意識を持ってサッカーに取り組むことを要求しています。

後編へ続く>>

杉山弘一(すぎやまこういち)さん 

1971年10月27日生まれ。大阪府出身。大阪商業大学を卒業後、Jリーグ・浦和レッドダイヤモンズに入団し、攻撃的な左サイドバックとして活躍。その後、ヴェルディ川崎(東京ヴェルディ)、アルビレックス新潟でもプレー。2003年に現役を引退した後、浦和レッズのサッカー普及部門「ハートフルクラブ」のコーチとして6年間にわたり幅広い年代のサッカー指導に携わる。2007年には日本サッカー協会公認S級コーチングライセンズを取得。2010年からアルビレックス新潟・シンガポールの監督に就任。2011年にはSリーグ最優秀監督賞を受賞。

アルビレックス新潟・シンガポールHP

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